2020.10.29
VOL.08「フリが本物になる時」
モテる善行は人の見ているところでこそ!?
世界のラグジュアリー人脈に通じ、社交界の裏事情にも詳しい謎の有閑マダム、カトリーヌ10世さんが、日本の男性諸氏が陥っている、ファッションと恋愛の無自覚・無意識の怠慢に覚醒を促し、読者を洗練へと導く連載です。
- CREDIT :
文/カトリーヌ10世 イラスト/ユリコフ・カワヒロ、林田秀一
■ Theme08「フリが本物になる時」
慈善活動です。本来、人の見ていないところで徳を積むのがベストですが、今回は「モテる」のためのアピールです。研究機関への寄付をして記者会見を行うもよし、慈善施設へ慰問するもよし、それほどの資産や社会的影響力がなければ道路を掃除しているところを目撃されるのもよし。
それを教えてくれる古典が、18世紀に書かれたラクロの恋愛書簡体小説『危険な関係』です。軍事に匹敵する恋愛心理戦を書き尽くした小説として読み継がれ、映画化、舞台化、数知れず。映画版のオススメは1988年のスティーブン・フリアーズ監督版です。ぜひ。
さて、この物語のなかで、女性を陥落させる手練手管に長けたちょい不良オヤジことヴァルモン子爵が、貞淑の誉れ高いトゥールベル法院長夫人を誘惑しようと試みます。しかし、これまでの戦法では相手にされない。そこでヴァルモンは、夫人の気を引くため、慈善活動に励むのです。なんとヨコシマな動機でしょう。涙ぐましい努力の甲斐あり、夫人は軽蔑していたヴァルモンを見直し、次第に惹かれていきます。
興味深いのは、最初は善行のフリだけしていたヴァルモンのなかに、次第に眠れる「善」が目覚めはじめること。ついにはゲームとして誘惑するつもりだった夫人を本気で愛するようになっていくのです。
社会的な善が求められる今、動機はなんだっていいのです。善行のフリを続けるうちに、内なる「善」が目覚めていくという心理に「目覚めなさい」。モテるフリをするうちに、本当にモテるようになるかどうかは、保証のかぎりではありませんが。
カトリーヌ10世
グローバル化が進む社交界事情にも通じる。密かな趣味は人間観察とコスプレ。好きな飲み物はモンラッシェ。日本ではほとんど知られていない、ある小国の女王とのウワサも!?