2019.12.27
あの『グランメゾン東京』の料理も監修した名レストランで昆虫料理を食べて来た!
いま注目されている昆虫食を、最上のクオリティで供する話題のレストラン「INUA」へ行ってみた!
- CREDIT :
文/秋山 都 写真/吉澤健太
昆虫食は世界を救うのか⁉
「ええと、メインはフリーレンジ(放し飼い)のチキンと、ロブスター、そしてANTS……え、アリ? 蟻? 蟻ってアリ?」と目が点になったのでした。とはいえ、蟻が食用になることは知っています。オーストラリアでアボリジニの人々が蟻を食べるとは聞いていたし、世界一のレストランとして有名な「noma」(デンマーク)では牛のカルパッチョや生のエビに蟻を調味料として用いているのだとか。蟻ってどうやらさわやかな酸味があるらしいのですよね。
でも、まさか、私の開いているメニューに蟻が並ぶ日がくるとは。メイン料理になるには、いったい何匹使われているのやら……好奇心はありましたが、やはり少々気が臆してしまい、オーダーには至りませんでした。
しかし、世界で昆虫が食されているのは決して珍しい光景ではありません。タイの市場に行けば多くの昆虫が食材としてならんでいるし、中国や、そして日本の一部でも虫は好んで食べられてきました。そして最近、昆虫食は注目されている——その背景には世界の人口増により予想されているタンパク質不足があります。
現在70億人ほどの世界人口は2050年には90億人にふくらむとされ、アジアやアフリカの人々が経済発展することで食生活が欧米化し、肉をより多く食べるようになったら……タンパク質は足りなくなってしまいます。
そこで主にアメリカでは大豆などの植物から作る植物肉の開発が急がれ、ベジミート、ソイミートなどの商品が現れているのはご存知かと。では高級レストランで昆虫が登場するのも、その食糧危機を見越してのことなのでしょうか?
日本各地を旅して、その食文化をリサーチし、「手や目に触れるものはなんでも食べてみた」というフレベルシェフは当然、昆虫にも触手(虫だけに)を伸ばしています。
「先日もライスハーベスト(稲刈りのことよね?)に行ったんですが、そこでグラスホッパーも獲ってきましたよ」
Grasshopper!? バッタも食べちゃうの?と驚きましたが、イナゴでした。いえ、イナゴだから驚かないというわけではないのですが(笑)。
この料理ではカイコと水をブレンドしてから真空調理でタンパク質だけを抽出。スープを飲んでみると、貝のような淡泊な旨味を感じます。シェフいわく「昆虫のピュアな部分だけ抽出すると味わいは非常に貝類に似ている」んだそう。
」。長野産のミツバチの子を蜂の巣ごと仕入れ、野菜出汁とバターで煮込んだ蜂の子と、スモークをかけてからフライにした蜂の子を2種、米とともに土鍋で混ぜ込む〆の一品です。
「蜂と相性がいいから」ということで色あざやかなナスタチウムやマリゴールドなどエディブルフラワーとともに供されましたが、考えてみればこの蜂の子たちは生涯一度も花を見ることなく、蜜を吸うこともなく、私の胃で消化されてしまうのだなと、ちょっと複雑な気分になったりして。
その私が、たった一度、昆虫をおいしく食べただけで、調理前の昆虫を見ても「なんかおいしそう」と思える……まるで脳の中で誰かが指をパチンと鳴らしたかのような感覚でした。いつか、どこかで、ナマコやシャコや、ホヤを初めて食べた人も同じような気分を味わったのでしょうか。
今回の取材にあたり、食材としての昆虫を前にした自分がリアクション芸人のような反応を取ってしまったら、シェフに失礼だと自らをいさめる気持ちで臨んでいました。でも、ここまで完成度の高い一皿を前にすると、そんなリアクションの出るヒマもなく、スムーズにカトラリーを手にする自分がいました。
馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、そして虫は食べてみよ⁉
なんでも食べてみたい、味わってみたいという、いい意味で欲張りな食いしん坊のみなさん、一度は経験してみてはいかがでしょう。
■ INUA
住所/東京都千代田区富士見2-13-12
営業時間/火~土18:00~、日ランチ営業のみ(不定期)
日曜・月曜休
HP/inua.jp
予約・問い合わせ/03-6683-7570 (火~土11:00 – 16:00)