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2019.08.28

夫を死の淵から救った、「夫婦弁当」1000日の記録

夫が心筋梗塞に見舞われ、投薬以外にできる治療は食生活の改善しかない、と言われた妻は奮起して弁当作りをスタート。1000回に及ぶ夫婦(メオト)弁当の記録から、ふたりの愛と闘志が伝わってきます。

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文・写真/藤田礼子

ここにご紹介するのは、広告業界でバリバリと仕事をし、毎日残業、深夜の外食当たり前という夫婦が、夫の病をきっかけに弁当作りを始めたというエピソード。

夫が心筋梗塞に見舞われ、投薬以外にできる治療は食生活の改善しかない、と言われた妻は奮起して弁当作りをスタート。1000回に及ぶ弁当作りには、楽しみあり、苦しみあり、そして再度の病という悲しみもあり。小さな箱に過ぎない弁当の中にはさまざまな思いが込められています。

パートナーがいる人も、いない人も、そして弁当を作っている人も、これから作ろうかなと思っている人も。心のこもった弁当が生活にどんな変化をもたらしたのか、ぜひ読んでみてください。

「夫を亡くすよりマシ」との思いで弁当を作り始めた

私と夫は40代後半と50代の夫婦です。ともに広告業界で働いており、子供はいません。ゆえに子供のためにお弁当を作る必要はありませんでしたが、今お互いのために昼食のお弁当を作り続けています。

そのきっかけは、今から4年前、夫が48歳の時に急性心筋梗塞で入院したことに遡ります。幸い大事には至らなかったものの、病院の管理栄養士から、退院後の食事指導を受けたのです。

夫に課せられたのは、1日当たりの塩分摂取量を6gに制限し、エネルギー量を1600kcalに抑えること。以前から体型維持のためにカロリーは制限していましたが、塩分は気にしたことがなくて。

調べてみると、6gは日本の成人が1日に摂取する平均塩分摂取量の約半分。外食をすればラーメン1杯で軽く6gを超えてしまいます。そのため、食生活を厳密に管理するには、自分でお弁当を作る以外の選択肢がなかったんです。
夫婦そろって夜型で、朝はギリギリまで寝ていたい。そんな従来の生活サイクルを根本から見直すことになりました。お弁当をつくるために、今までより1時間早く寝て1時間早く起きる。

晩ご飯もできるだけ家でつくる。その実現に向けて、残業を減らすためのタイムマネジメントの強化や、グルメな友人らとの食事の機会を減らすことも必要になりました。

それでも、突然夫を亡くすかもしれないという恐怖を味わった自分にとっては、生かされた命を守りたいという思いのほうが強かったのです。
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塩分代わりに活躍した意外なアイテムとは

こうして始まった我が家の減塩・低カロリー生活。昼食は500kcalに抑えるため、お弁当箱の大きさは約400mL容量のお子さまサイズ。

ここにあらかじめ小分けして冷凍しておいた140g(235kcal相当)ご飯をチンして詰めて、残りのスペースにおかずを詰めるのが基本のパターン。お米は塩分ゼロで脂質も低く、カロリーが把握しやすい安心食材。おにぎりの時も当然塩を使わずに握ることになりますが、ここで活躍するのが意外にも「大葉」でした。

さわやかな香りがアクセントになって、とても美味しいです。減塩食というと味が薄いというイメージがあると思いますが、香味野菜やスパイス、ごま油などを使って苦味、酸味、辛味などで補うことで美味しくすることは可能になります。
お子さまサイズの弁当箱にごはんとおかず、が基本パターン。

SNSで日々の弁当生活を発信

日々のお弁当を記録するために始めたアプリがひとつの励みに。
毎日のお弁当を記録するために始めた「miil(ミイル)」というSNSを通じて、沢山のオベンターさんと知り合えたことは、大きな原動力になりました。コメントを通じて互いを労い合ったり、詰め方のアイデアを交換したり。

「お弁当づくりを義務と考えると辛くなってしまうから、まずは自分が楽しめるように心掛けること」

そう教えてくれたのもオベンター仲間でした。

手抜きは積極的に肯定して、晩ご飯のおかずはお弁当にスライドさせることを前提に作る。詰める手間が要らない「のっけ丼」は時短に最適。成分表示に気を配れば加工食品や冷凍食品を取り入れるのも全然アリよ、って。
ある日の「のっけ丼」。アスパラの肉巻きがドドンと。
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「料理が怖い。もう作りたくない」

しかし3年が経ったある日、再び夫が倒れてしまったんです。今度は脳梗塞でした。医師と管理栄養士の指導を守って食生活を変え、定期的な運動も行い、体重は8kgも減らしたのに。怒りと悔しさで一杯になりながら、私たちは医師に尋ねました。

「言われたことは全部やりました。結果だって出しました。それなのに、なぜ?再発を防ぐためには一体どんな生活を送ればいいのですか?」

「投薬以外にお伝えできることは、【減塩、減量、カロリー制限】しかありません。これが今の西洋医学の限界なんです」

医師の回答は、今までの努力もこれから先の希望も、すべてを無に返す冷酷なものでした。

夫が循環器系の病を繰り返す原因には、先天的な体質など様々な要因がある。頭では理解していても、妻としての管理が不十分だったかもしれないと自分を責めたり落ちこんだりしました。

それでも、夫に健康を取り戻してほしいという気持ちが変わることはなく、自分に何かできることはないかと毎日あらゆる情報に目を通し続けました。

しかし、世にあふれる健康情報は科学的根拠に乏しく疑わしいものばかり。調べるほどにわからなくなって、次第に料理に対するモチベーション失われていきました。

キッチンに立つだけで全身が震えポロポロと涙がこぼれるようになってしまったのは、それから間もなくのこと。自分の精神状態が限界を超えたことを悟って、夫に初めて弱音を吐きました。

「料理が怖くて作れない、もう作りたくない」。

すると夫は、

「わかった。これからは僕が作るよ」

と言ってキッチンに立ち始め、毎日の食事だけでなくお弁当まで作ってくれるようになったのです。
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夫が作った初めてのお弁当。
「お互いに、もたれ合ったらいいじゃない」

なにげない夫のひと言に、すっと肩の力がぬけていくのを感じました。私は昔から他人に弱みを見せるのが苦手で、家庭においても夫と対等でいられる強い妻でありたいと考えていました。

でも、家族って互いの弱点を補い合うチームなんですよね。一人では乗り越えられない高い障壁も、ふたりでならきっと乗り越えられる。2つの大病を後遺症もなくサバイブできた幸運に感謝して、もう一度前を向こう、力を合わせて。
夫作、最近のお弁当。色どりやおかずのバリエーションに進化が見てとれる。
それから半年。私は再びキッチンに立てるようになりました。週末になると、夫と翌週のお弁当メニューを考え、一緒に常備菜を作ることが新しい習慣になりました。毎朝のお弁当づくりは、夫にバトンタッチ。

これからも楽しい時間が過ごせますように。一日でも長く健康に生きられますように。夫婦でつくるお弁当には、ふたりの健やかな未来に向けた夢や願いが詰まっているんです。
週末に造る常備菜1例。

● 藤田礼子

外資系広告代理店勤務を経て、2005年に広告制作会社「CUNE Communications Inc.」設立。クリエイティブを起点としたコミュニケーション戦略プランニングから実施までを担う。2008年、フランスにてシャンパーニュ騎士団シュヴァリエを叙任。プロフィールは夫によるイラスト。

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