2022.01.22
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がビジネスパーソンの共感を呼ぶ理由
主人公・北条義時(小栗旬)は、「常に周囲に振り回され、調整する」という役回り。この設定が、「一般のサラリーマンが、上司や同僚、取引先やライバル社の調整役として奔走し、プロジェクトを成功させる」という現代のビジネスシーンに置き換えられるという……。
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文/木村隆志(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)
BSプレミアムで18時から先行放送があるほか、録画視聴やNHKプラスでの配信視聴も多く、20時台のリアルタイム視聴だけを抜き取った視聴率は、今や単なる一部のデータ。事実、9日は20時のスタート前から「#鎌倉殿の13人」がツイッターのトレンドランキング1位を記録し、その後も多くの関連ワードがランククインしました。
もともと今回で大河ドラマは3度目となる脚本家・三谷幸喜さんには、「BSで少しでも早く見たい」「録画してじっくり見たい」というファンが多いだけに、報じられる視聴率では測れない熱気があるのは間違いないでしょう。
このコラムで書きたいのは、同作が大河ドラマとしての面白さがあるだけでなく、「ビジネスパーソンにとって参考になり、共感できる作品」ということ。第1話を見逃した人も、まだすぐに追いつけるタイミングだけに、ビジネスパーソンを引きつけるであろうポイントを挙げていきます。
(編集部註:ここからは一部ネタバレを含みますのでご注意ください)
周囲に振り回され、奔走する主人公
しかし、流罪人・源頼朝(大泉洋)が義時の幼なじみで思いを寄せる八重(新垣結衣)と恋仲になり、男児が生まれたことで状況は一変。清盛から頼朝の監視を任されていた八重の父・伊東祐親(浅野和之)は激怒し、捜索命令を出した……。
ここからが本題で、兄・宗時が頼朝をかくまい、「源氏再興に努めます」と勝手に宣言。さらに、姉・北条政子が頼朝にひと目ぼれして近づき、頼朝を追い出すことができなくなったとき、義時は祐親からかくまっていることを見破られ、窮地に陥る様子が描かれました。
会えなくなった頼朝と八重の橋渡し役を頼まれ、戸惑いながらも対応したところも含め、義時は「常に周囲に振り回され、調整する」という役回り。しかもこの役回りは、頼朝と政子の結婚によって決定的となり、今後は平家打倒のために源氏と坂東(現在の関東)武者たちをつなぐ調整役として奔走する様子が描かれていくようです。
実際、ホームページの登場人物欄を見ると、義時は「田舎の平凡な武家の次男坊」「一癖も二癖もある坂東武者たちの間を奔走する」などと書かれていました。この設定は、「一般のサラリーマンが、上司や同僚、取引先やライバル社の調整役として奔走し、プロジェクトを成功させる」という現代のビジネスシーンに置き換えられます。
タイトルの「13人」に込めた意味
過去を振り返ると三谷幸喜さんは、2016年の大河ドラマ『真田丸』でも、主人公・真田信繁(堺雅人)を、父・昌幸(草刈正雄)、豊臣秀吉(小日向文世)、石田三成(山本耕史)、茶々(竹内結子)らに振り回される調整役として描いて共感を集めました。
北条義時も真田信繁も、2010年以降、大河ドラマの主人公だった坂本龍馬、平清盛、西郷隆盛、明智光秀のような誰もが知る歴史上の偉人ではありません。少なくとも序盤は、それらの偉人を支えるタイプの役回りであり、だからこそ生き残る知恵と人間味が表れやすく、見応えが生まれるのです。
また、誰もが知る歴史上の偉人を中心にした作品でないことは、「鎌倉殿の13人」というタイトルを見てもわかるでしょう。その「13人」とは、頼朝の没後、鎌倉幕府2代将軍の源頼家を支えた13人の合議制や、権力闘争を繰り広げた13人を指しているそうです。
これは「鎌倉殿の13人」が義時や北条家の成功譚ではなく、「さまざまな個性が関わり合いながら物語が進む群像劇である」ということ。「社内外でさまざまなビジネスパーソンが関わり合いながら、明暗が分かれていく」という点でも、やはりビジネスシーンと似ているのです。
感情移入をうながす現代語の多用
第1話で義時の父・時政(坂東彌十郎)の「(平将門は)最後は首チョンパじゃねえか」というセリフがツイッターのトレンドランキングに入るなど話題を集めました。それ以外でも、義時の「まずいな。どんどんまずくなっていく」、兄・宗時が「平家をぶっつぶすぜ」、姉・政子が「バカおっしゃい」、妹・実衣(宮澤エマ)が「ゾッコン」などと、わかりやすい現代の言葉を使っていましたが、これはあえての脚本・演出。
大河ドラマ定番の戦国や幕末と比べれば、中世の物語に視聴者の感情移入が難しいのは間違いありません。しかし、三谷さんを筆頭に制作サイドは、単にコミカルなシーンを作っているのではなく、わからない昔の言葉より身近な言葉を使うことで、より視聴者が物語にのめり込み、笑い泣きしやすくしているのでしょう。
そしてもう1つ強調しておきたいのが、シビアなシーンで魅せる会話劇の妙。三谷さんの脚本は笑いの大きさから、どうしてもコミカルな会話シーンばかりピックアップされがちですが、決してそれがメインではありません。むしろ笑いがあるからこそシビアなシーンが際立ち、そこでの会話劇に人間の怖さ、ずるさなどをにじませています。
たとえば第1話でも、祐親が義時に父・時政の後妻・りく(宮沢りえ)について、「顔にあざがある」というトラップを仕掛けて関心の有無を探り、その返事を呼び水にプレッシャーをかけて、北条家が頼朝をかくまっていることを察しました。「裏切りや寝返りは生き残るための常套手段」「血縁関係がある身内でも殺し合う」という時代だけに、今後も成功や立場を賭けたシビアな会話劇が見られるはずであり、これもビジネスシーンに置き換えられる光景ではないでしょうか。
コンプレックスを抱える“陰”キャラ
演じる小栗さんは、「NHK大河ドラマガイド 鎌倉殿の13人」(NHK出版)で義時のことを「父の時政や(兄の)宗時は天真爛漫な“陽”の人で、義時は“陰”の人」「皆から好かれる父の打算のなさや、物事を力業で進める兄の行動力をうらやましく眺めていた」などと語っていました。
カリスマ、明るさ、行動力、意思の強さなどで、父や兄には及ばないことを自覚しながらも、冷静に、地道に、辛抱強く、事態を切り拓いていく義時の姿は共感必至。また、主君・頼朝に対して「時に見せる冷酷さを理解できないこともあって、頼朝を支えたいのに気持ちが追いついていかない」という今後の展開もコメントしていました。この点も、上司と部下の関係性などビジネスシーンに置き換えやすいところであり、注目を集めるでしょう。
最後に話を物語の全体に目を向けると、第1話の最後に木曽義仲(青木崇高)を「平家討伐の先陣を切って京へ乗り込む朝日将軍」、藤原秀衡(田中泯)を「平家も一目を置く勢力を誇る奥州藤原氏」、源義経(菅田将暉)を「その庇護を受けていたのちの天才軍略家」、後白河法皇(西田敏行)を「謀略をこよなく愛し、日本一の大天狗と呼ばれた」とピックアップしていました。三谷さんはひときわ時代考証に力を入れるタイプの脚本家だけに、これらの大物たちがどのように描かれるのか楽しみです。
大河ドラマは日本で放送される唯一の年間ドラマ。あなたが「鎌倉殿の13人」を楽しむことができれば、それは1年間にわたる楽しみを見つけられたことになるだけに、まだ見ていないという人は注目してみてはいかがでしょうか。