2022.01.08
最近は、大人の男もメイクをするらしい……
5〜6年前から若い人を中心に拡大していたメンズコスメ市場に、コロナ禍をきっかけにビジネスマンが加わったそう。浮いた飲み代も使えるし、おうち時間に練習もできるしと、BBクリームや色つきリップなどのメイクアイテムが売れていると言うから注目したい。
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文・写真/吉田理栄子(ライター/エディター)

雑貨店などでメンズコスメ専用の売り場を見渡すと、化粧水や乳液はもちろんのこと、BBクリーム(ファンデーションと化粧下地や美容液効果などが一体化したアイテム)、コンシーラー、ネイルケアに色つきリップ、アイブロウ、除毛剤など幅広い商品が並び、手に取って見ている男性の姿もよく見かけるようになった。
調査会社のインテージによると、2020年の化粧品市場は前年の89%と大きく落ち込む一方、男性の化粧品市場は前年比104%と拡大している。
外出する機会が減っているのに、なぜメンズコスメの販売が堅調なのだろうか。
「最初の緊急事態宣言で、BBクリームが伸びた。オンライン会議が一般的になり、自分の顔を画面越しに見る機会が増えたことで、顔色をどうにかしたいという需要が増えたこと、飲み代などに使っていたお金が浮いたこと、時間に余裕ができたことなどが相まった」と分析するのは、生活雑貨店のロフト健康雑貨部バイヤーの廣末将太氏。
オンライン会議では上半身だけ身繕いすればいいというメリットがあるが、それは顔も含まれる。女性に比べ今まで、自分の顔を鏡でじっくり見る時間が少なかった男性たちが、PCの画面上に映し出される自分の顔を見て、顔色などを気にするようになったというわけだ。

5~6年前から売り上げが伸びてきた
ただし、急激に市場が盛り上がったわけではなく、それ以前からメンズコスメは徐々に市場が整ってきていた。そこへ、コロナ禍が追い風となって吹いた。
ロフトがメンズコスメ売り場を設けたのは今から10年以上前だが、「当時はまだブランド数も少なく、体臭、抜け毛、ニキビといったお悩み解消系が主流。メンズコスメの定番といえば、ヘアスタイリング剤だった。それが5〜6年前よりメンズケアの売り上げが伸長し、基礎化粧品の売り上げが半分を占めるようになった」(廣末氏)と言う。
そのきっかけとなったのが、2013年に誕生したメンズスキンケア専門ブランド「バルクオム」の洗顔料「ザ フェイス ウォッシュ」だ。それまで男性用の洗顔料といえば、顔の脂をさっぱりスッキリしっかり取り除く数百円〜1000円以内のものが一般的だった。
しかし、この洗顔料は、不要な脂は取り除くが、肌の潤いはしっかり残すせっけんで、しっかり泡立ててから使用するのが特徴。価格は2200円(税込み)と高額で、パッケージもモノトーンを基調としており、シンプルでおしゃれだ。

こういった背景もあり、ロフトでは2017年に「銀座ロフト」をオープンするにあたり、メンズコスメ売り場を広く設けた。
SNSやネットで調べて購入
特にメンズコスメで特徴的なのはヘアサロンブランドの人気が高いことだ。男性が最初に手を出すコスメ関連商品といえば、ヘアスタイリング剤ということもあり、美容師への信頼度も高く知名度もある。
例えば、2019年にメンズ界のカリスマサロン「LIPPS(リップス)」から誕生したメンズコスメブランド「LIPPS BOY」。ヘアワックスやヘアオイルだけでなく、化粧水からファンデーションまで取り扱う。

表参道を拠点にするメンズヘアサロンOCEAN TOKYO(オーシャントーキョー)がプロデュースした人気のヘアケアシリーズ「OCEAN TORICO(オーシャントリコ)」からも、2021年5月(ロフト先行発売)に男性用スキンケアシリーズが発売され、好調に売れているという。
このように、5〜6年前から若い人を中心に拡大していたメンズコスメの市場に、前出のバルクオムが最初の緊急事態宣言時からテレビCMを打ち出し、さらにマーケットが拡大。コロナ禍をきっかけにビジネスマンが加わった。
「メイクは、バレないもの、自然なものが売れる。男性用洗顔料も以前は数百円〜1000円以内の価格帯だったが、バルクオム2200円(税込み)を基準に、今ではそれよりも高い価格帯も出てきた。
女性ブランドから参入した『アスタリフト』が男性用にも女性と同価格の1万3200円(税込み)の美容液を投入したところ、(ロフトでは)同ブランドのラインの中で一番売れている。
今まで『スキンケアといえばニキビケア』だったが、ワンランク上のスキンケアへの関心が高まり、むしろニキビケア商品が売れない時代となっている」(廣末氏)
今までまったく手入れをしてこなかった男性が、きちんと手入れをしだすと肌環境が改善されたということなのだろう。
女性ブランドからの参入や新ブランドの登場、既存ブランド内での商品数増加などに伴い、取り扱い商品数は2018年の450種類から、2021年は580種類まで大幅に増えた。
しかし、「メンズブランドはできたばかりの会社も多く、女性コスメと違って消費者も成熟していない。女性ラインほど展開数もなく、まだまだこれからの市場」(廣末氏)。そのため、ネットが主な情報源で、ネットで見たことのある興味を持った商品の現物を手に取って購入している人が多いようだ。
例えば、除毛クリームも、ユーチューバーのヒカキンが使い方まで動画で紹介したところ、もともと売れている商品だったが、売り上げが2倍に増えた。
「女性のマーケットは成熟しているのでそんなに大きな波はないが、メンズコスメは売り場開設当初からずっと伸びている。今20代の人たちはこのまま使い続けることになるだろうし、コロナ禍以降使い始めた30〜40代の人たちも、肌の調子がよくなったことでこの先継続して使い続けるだろう」(廣末氏)
色つきのネイルケアやリップも
「色つきのネイルはおしゃれに敏感な人向けだが、すでにTikTokerらが拡散するなど、認知も拡がってきている。リップは血色をよく見せるため、BBクリームと同様の位置づけだ。そもそも男性はメイクに関してはゼロからのスタートなので、なんでもチャレンジできる。男性芸能人でも美容について意識の高い男性が情報発信する頻度が増え、コスメそのものがジェンダーレスになってきている」(廣末氏)

何より、パッケージもひと昔前のように、男性用の赤、青、黒などの強めの色を使っているものばかりではなく、白を基調としていたり、サステイナブルを意識しているなど、男女どちらでも使えるものが増えている。
「パッケージの見た目で気に入られなかったらそれで終わりなので、パッケージに対する考え方も以前とは全然違う。自宅の洗面台に置いた時におしゃれに見えるものが今やスタンダード」(廣末氏)
洗顔後のお手入れやメイクアップがスタンダードになる時代になっていくかもしれない。