2022.07.31

【第12回】「LAB Q」(札幌)

札幌のラーメン、どこが美味いか?

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博

らぁ麺やまぐち LEON 山本益博
▲ 今回訪れた札幌「LAB Q」の塩らぁ麺(左)と醤油らぁ麺(右)。※塩らぁ麺はミニ(半量)です。
私は昭和23年(1948年)東京生まれ下町育ちで、父親は靴下の卸業を営んでいた。毎月、靴下のサンプルを持っては、北海道へ出かけ、函館、小樽、札幌、帯広、釧路などの洋品店に靴下を売りに出かけていた。昭和30年代後半になると、衣料品の卸業が衰退し、先行きの見通しが立たなくなり、父親は靴下の卸業をやめ、札幌の「金市館」という小型の百貨店へ就職した。昭和40年(1965年)、私が高校2年生の時、家族が札幌へ転居し、私は高校2年の3学期から札幌に住むようになった。

札幌で父親が初めて私を連れて行ってくれたラーメン屋が「富公(とみこう)」だった。その「富公」はテレビ塔近くの南1条西2丁目にあった。今にして思えば、父親が就職した「金市館」は南2条西2丁目にあって、昼にでもよく通っていた近所のラーメン屋だったのだと思う。

「富公」で食べたのは、いつも醤油味のラーメンで、にんにくの香りが食欲を掻き立て、もやしのシャキシャキとした歯応えが心地よく、いっぺんで私のお気に入りのラーメンとなった。その後、有名な「味の三平」はじめ、すすきの「東宝公楽」横の「龍鳳」など、札幌にいた高校生、予備校生の時代に名高いラーメンを食べ歩いたが、最後はやはり「富公」に戻ってしまうのだった。
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伝説のご主人に「横へすこし動きな」と指図されて

後年、料理評論を仕事にするようになって、札幌の「富公」を久しぶりに再訪したところ、場所を狸小路7丁目に移していた。そして、札幌では孤高のラーメン店としてあまねく知られた名店になっていた。

この時、今でも忘れられない思い出がある。店内のカウンター席がいっぱいで、私は席の後ろに用意された長椅子で自分の順番を待っていた。ようやく席が空いたので、カウンター席に着いたところ、ラーメンを注文しようとする私に向かって、オヤジさんが手を伸ばし、「横へ少し動きな」という指図をするのだった。指示されるままに右側に少し椅子をずらして座りなおして、左右を見ると、ぴったり同じ間隔のスペースになっていた。
毎日、「ホーム」で仕事する主人は、代わる代わるやってくる「アウェイ」の客を見て、いつもと違う位置の画像だと仕事がしづらいということらしかった。普段から庖丁など道具が決まった場所に寸分たがわず置いておく料理人と同じセンスの職人気質を垣間見て、私は鳥肌が立ったのを覚えている。

「富公」のご主人菅原富雄さんは平成4年に亡くなられたとのことだが、「いらっしゃい」も言わず、「ご馳走様でした!」と言うと「おうゥ」と応えるだけの、頑固一徹で知られたラーメン屋のオヤジとして、今や伝説の人だが、いちどお話をしてみたかったと思う。「生涯の思い出のラーメンを三杯挙げろ」と言われれば、荻窪の「丸福」徳島の「よあけ」とともに必ず名前がでてくる一杯である。
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▲ 札幌「LAB Q」の店構え。

「どさんこ」のイメージの対極にある、洗練を極めた「LAB Q」のラーメン

さて、令和の時代の札幌である。札幌と言えば「味噌ラーメン」が代名詞だが、もし私が1軒挙げるとなれば有名な「時計台」の北1条西2丁目区画のビルの地下にある「LAB Q(ラボキュウ)」だろうか。理由は「どさんこ」のイメージの対極にある「洗練を極めたラーメン」だから。今回、この店を訪れるために札幌へ飛んだ。
「麵屋彩未」「純連」「えびそば一幻」など、札幌の有名店のどのラーメンも魅力に溢れてはいるが、すべての具材の洗練度を極めているのは「LAB Q」ということになる。主人兼料理長の平岡寛視(ひろし)さんによれば「Q」はクオリティの「Q」だとのこと。その質の高さは食べてみればすぐにわかる。
▲ 「LAB Q」主人兼料理長の平岡寛視(ひろし)さん。
「塩らぁ麵」と「醤油らぁ麵」が看板メニューで、細麺がスープに巧みに絡んで、するすると口元を通ってゆく。チャーシューは豚ロースのローストと、炭火焼きにして後、昆布締めにしたロースの2枚。後者は炙った香りの強さを昆布締めでほどよい加減にまとめている。

いわば、ローストポークで、昔ながらのチャーシューからは程遠いところにある。メンマは「塩らぁ麵」には穂先メンマを使い、青味もそれぞれ替えてある。
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▲ 札幌「LAB Q」の塩らぁ麺。※ミニ(半量)です。
ここで重要なのは、塩加減で、後味に「塩味」が残っては何にもならない。「塩らぁ麵」で残るのは「塩味」ではなく「妙味」、いっぽう「醬油らぁ麵」は生醤油の「生」がやや強いのが気になるくらい。これが「かえし」のように練れていれば、最強の「醬油らぁ麵」と言えようか。
▲ 「LAB Q」の醬油らぁ麵。
最も感心したのは、「醬油らぁ麵」から海苔が消えたことである。3年前の2019年5月27日に訪れた時、「醬油煮干しSOBA」には海苔が添えてあった。いつから海苔が消えたのか知らないが、海苔の質が良ければ良いほど、スープに漬けては海苔の価値は台無しと、いつも思う私は、平岡さんのこの英断に大賛成である。

「LAB Q」の「らぁ麵」は、東京からわざわざ出かけて食べる価値のある一杯になっていた!
▲ 3年前に食べた「醤油煮干しSOBA」。
※次回は8月14日予定です。
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らぁ麺やまぐち LEON 山本益博

Japanese Ramen Noodle Lab Q

住所/北海道中央区北一西2-1-3りんどうビルB1F
営業時間/11:00~15:00
定休日/日曜
TEL/011-212-1518
Twitter/JapaneseRamenNoodleLab Q

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
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