ホームに戻る
広見護の極上シガータイム
ピーター・フォーク
14 September 2011
POSTED BY 広見 護

葉巻と言えば、わかる? そう「刑事コロンボ」だよね、旦那。その主演はピーター・フォークだよう。でも彼、今年6月に83歳で亡くなったんだってね。天下の名優だよ。世界の誰もが知ってる“ザ・シガーオヤジ”さ。「刑事コロンボ」の中から名作を5本挙げろって? まず「別れのワイン」は入るだろうね。原題(ANY OLD PORT IN A STORM)は「嵐の時にはどんな港でもありがたい」という意味。港のPORTとポートワインを掛けているわけ。いちいちカッコイイね。その中にね、こんなセリフがありましてねえ。エイドリアン「葉巻はご遠慮願えませんか?」コロンボ「あ、これは失礼」エイドリアン「良い葉巻は良いワインに合うと信じる向きもあるようですが、私は違うと思います。互いに味を損ないます」だってさ。あ、いけね!そろそろうちのカミさんがうるさいからあの世へ戻るよ。じゃあね!

kaflo_MBZA126691
写真:Everett Collection/アフロ

ピーター・フォーク(1927−2011)アメリカの俳優。
アメリカで製作、放映されたテレビドラマ『刑事コロンボ』の
長年にわたる主演で知られる。3歳の時に右目に腫瘍が発見され、
眼球の摘出手術を行う。それ以来、右の眼孔に義眼をはめている。
コロンボ警部といえば、よれよれのコートと葉巻で有名ですよね。
だけど、往年の彼はまさにLEONオヤジそのもの。
素顔は高級葉巻を手に、バッチリ決めてるハリウッド・セレブですよ。
そんな名優も今年6月23日に83歳で亡くなりました。
最後は自分がコロンボだったことすら覚えていなかったそう。
しかし、世界中のファンはこの名優を永遠に忘れることはないでしょう。
写真は愛車の1959年式のプジョー403コンバーチブルと
コロンボ警部。手には相棒の葉巻!

ある日曜日。カッシーニ・ワイナリーの応接室。オヤジ四人がクリスタルグラスにキラキラと反射し、ルビー色に輝くワインを飲んでいる。社長のエイドリアン・カッシーニは、ワイン協会の幹部に自分が作ったワインをふるまいながら言った。「ティツィアーノでさえ、これほど美しい赤は出せなかったでしょう。仮に試みたところで、失敗したでしょう。味も、その色に劣りません」協会の幹部は素晴らしいワインに興奮している。そしてエイドリアンが2本目の極上ボルドーを取りに隣の執務室へ入った。そこには弟のリック・カッシーニが来ていた。エイドリアンはリックに尋ねる。「カッシーニの名を高めたワインを飲むかね?」革張りの椅子に座ったリックは答える。「カッシーニを金持ちにさせるワインを飲みたいね」弟は四度目の結婚をすることになり、明日アカプルコで式を挙げるという。金の無心に来たのだが、弟なりの言い分もあった。

実は、亡くなった二人の父は兄に現金を相続し、弟には会社を相続していた。兄は現金を使い果たし、弟は会社を兄に任せていた。つまり、会社のオーナーはリックであり、エイドリアンは雇われ経営者だった。リックは、エイドリアンが会社の金をワイン道楽に注ぎ込んでいるのを知っていた。そこで、高収益を上げているマリノ酒造に会社を売却すると言いだす。しかし、エイドリアンにしてみれば、25年を会社のワイン作りに捧げており、今になって会社を売るなど断じて許せる話ではなかった。しかも安物ワインの大量生産で儲けているマリノ酒造なんかに!置物でリックの後頭部を思いっきり殴打してしまった。まだ息はしているようだ。ワインセラーに運び込み、ロープで体を縛る。ワインセラーの空調スイッチを切った。これでやがて窒息死だ。

極上ボルドーを手に応接室に戻るエイドリアン。協会の幹部は高級ワインを2本飲んで、喜んで帰っていった。翌日、ニューヨークで開催されるワイン・オークションに旅立った。一週間後。リックの赤いフェラーリに遺体を乗せ、崖から海に投げ捨てた。スキューバ・ダイビング中の海水事故に見せかけるため、リックの車を崖の上に停めたまま、後部トランクに積んだ折り畳み自転車で家に帰った。リックが行方不明になったことで、ロサンゼルス警察に相談にやってきたのが一緒にハネムーンに旅立つ予定だった婚約者である。しばらくすると、ダイバーによってリックの遺体が発見された。

スキューバ・ダイビング中の事故のようだが、コロンボはボヤく。「どうも、チグハグなんだよな」死亡推定時刻の18日(火)は、気象庁の調べで終日雨だった。なのに、リックのオープンカーは幌を上げたまま。検死の結果、被害者の胃袋からは二日間物を食べた形跡がない。どしゃ降りの雨の中、飲まず食わずで本当にスキューバ・ダイビングをやったのか?聞き込み調査では、兄弟二人の仲が悪かったことも判明。守衛は、日曜日の正午にリックが来たのを見ている。だが、帰るのは見ていない。ワイン協会との会合中にエイドリアンは一度席を外している。そして、絶対に他人には任せないと言っていたワインのデキャンターへの移し替え作業を、この日だけはファルコン氏に代わってもらっている。だが、エイドリアンにはアリバイがあった。16日(日)から1週間、ワイン協会の幹部3名と一緒にニューヨークのワイン・オークションに出かけているのだ。5000キロ彼方のニューヨークにいたということは、やはり事故なのか。

エイドリアンとカレンを疑ったお詫びのしるしと言って、コロンボは二人をレストランのディナーに招待する。前菜の牡蠣にはモーゼルを、メインの牛肉にはジンファンデルを、デザートにはフェレイラ・ビンテージポート1945年を注文した。エイドリアンは、コロンボがよく勉強していることに感心したが、それにもまして、このレストランにフェレイラの1945年があることが信じられなかった。だが、そのポートを口にした時。「飲むに堪えんな!君はこのポートを40℃という高温に置いていたに違いない」とレストランのワイン係りに怒りを爆発させた。

コロンボはエイドリアンに言う。「そういえば先週、気温が40℃を超えた日がありましたね」と。これを聞いてエイドリアンは我に返った。ワインセラーにリックを閉じ込めたあの日、セラーの空調を切った。つまり、自分の秘蔵のワインがすべて高温でパーになっていることに気付いたのだ。翌日、ワインセラーのワインを運び出し、エイドリアンは崖に現れた。死ぬ思いでワインを海へ投げ捨てた。車へ戻ると、そこにコロンボが待っていた。コロンボはワインの勉強を通じて、エイドリアンの行動が読めた。ダメになったワインは、この男なら絶対に捨てる。そのためには、この場所に現れるであろうことさえも。

そして打ち明けた。「実は、私もワルでしてね。あのレストランで出されたビンテージ・ポート。あれ、お宅のワインセラーからひそかに一本持ち出した物だったんですよ」そうとは知らないエイドリアンは、レストランで自分のワインを鑑定して激怒したのだ。笑うしかなかった。コロンボの車に二人は乗る。「皮肉なものだ。あのワインがダメになっていることがわかる人間は、世界にも数人しかいないだろうに」「自供してくれますか?」「もちろん、自供しますよ。実を言うと、重荷を下ろした気持ちなんです。つまりですな、秘書のカレンが真相を知って、結婚を迫ってきたんです。女の人はこうなると強いですな。刑務所は、結婚よりは自由かもしれませんな」エイドリアンのブドウ畑の前。「全生涯を通じて、私が真に愛したのは、ここだけだった」「勝手ですが、こんなもん、持ってきたんです」「おぉ、モンテフィアスコーネ!こりゃ、最高のデザートワインだ」「お気に召してよかった」二人は乾杯する。「それに、別れの宴にも相応しい。よーく、勉強されましたな」「ありがとう。何よりもうれしいお褒めの言葉です」イタリア系のオヤジが二人。大きな笑い声が、オンボロの青いプジョーから聞こえてくるのであった。

コロンボのように葉巻を嗜みたいものです。語らずに、ただ愛好し、笑う。

では、また来週!

あ、あとひとつだけ。CS放送で9月16日、17日、18日と3日間に渡ってピーター・フォークの追悼特集「〜刑事コロンボよ永遠に〜ピーター・フォーク追悼特集」をやっているらしいです。詳しくはURLまで。
http://mystery.co.jp/sp/peter_falk/

このエントリをはてなブックマークに登録 Yahoo!ブックマークに登録 Deliciousにブックマーク
RECENT ENTRIES
PROFILE

広見護(ひろみ・まもる)

90年にソムリエ資格を取得後、単身キューバへ。銀座のフレンチレストラン在職中の97年、日本で初めて葉巻の書を著す。その後、外資系商社にてシガービジネスに携わり、06年から独自にシガーの輸入販売を開始。07年にはオリジナルシガーのブランドを立ち上げ、08年直営シガーバーをオープン。葉巻を吸い、書き、つくる、マルチプレーヤー。葉巻歴20年。

HIROMI ENTERPRISE HP