ギャングの世界だけでなく、ハリウッドでも葉巻をくわえることが許されているのは選ばれた男だけだった。エリッヒ・フォン・シュトロハイムやジョン・フォード、アルフレッド・ヒッチコックなどの大物映画監督。ダリル・F・ザナックなどの大物映画プロデューサー。そしてエドワード・G・ロビンソン、ジョージ・バーンズ、オーソン・ウェルズらキラ星のように輝くトップ俳優のみ。アメリカの葉巻業界は1949年、そんな選ばれし男の中から更に選び抜き、エドワード・G・ロビンソンに“ミスターシガー”の称号を贈っている。 そんなミスターシガーが出演した代表作の一つに「シンシナティ・キッド」(1965)が挙げられる。ポーカーのキングを目指す主人公にスティーブ・マックイーン(34歳)。ギャンブル界の頂点に君臨する帝王にエドワード・G・ロビンソン(71歳)。ベテランと若手の勝負。最初と最後に登場する靴磨きの少年が“男の成長”を暗示する物語。時は、グリーン・ラッパーのシガーが流行っていた時代、というのが闘鶏場のシーンに見て取れる。場所はニューオーリンズ、言わずと知れたジャズの街である。 写真:Rex Features/アフロ
ディキシーランド・ジャズの伴奏で黒人の葬儀が行われていた。歳は若いが度胸があり、ポーカーで向かうところ敵なしのエリック・ストーナー(スティーブ・マックイーン)が通りがかり、それを見つけた黒人の靴磨きの少年が寄って来た。『シンシナティ・キッド!』貧しい少年にとってシンシナティ・キッドと呼ばれるエリックは憧れの存在である。少年はキッドにコイン投げのゲームを挑んだが、勝負は簡単についた。キッドは少年に諭す。『年季が足りない』キッドを羨望の眼差しで見つめ、少年は去って行った。 キッドは勝負相手を求め、ミシシッピ川を越えて隣町でも素人相手に金を稼いでいた。そんなところへ“ザ・マン”の称号を持つ伝説のギャンブラー、ランシー・ハワード(エドワード・G・ロビンソン)が街に現れる。小さな街の勝負師なんかで終わりたくないキッドにとって、30年に渡ってギャンブル界最高位のタイトルを保持しているハワードに勝ち、名声を得るチャンス。ハワードは街の名士、スレイドと対戦することになっており、ディーラーは古参のシューターに決まっていた。勝負の結果は当然であるが、スレイドの大負け。しかしプライドが高く、負け自体に気が収まらないスレイドは、シューターに次のキッドとのゲームでイカサマを命じる。実はシューターはスレイドに借金をしており、これを簡単に断ることができなかった・・・。 ハワードの泊るホテルの一室。頭脳と気力の限りを尽くした勝負が始まる。ゲームはキッドとハワードの他にも3名が加わったが、彼らはすぐに破産した。最後に残ったのはキッドとハワードの二人。キッドの優勢が続くが、シューターの行動に不審を抱いたキッドは、休憩時に掴み掛かる。『実力で勝つ自信がある。イカサマをやめないとばらすぞ!』シューターはスレイドの脅しに屈していたのだ。キッドは別のディーラーに交代させ、最後の勝負に挑む。 キッドの手はフルハウス。ポーカーフェイスだったキッドの口元が微妙に緩む。ギャラリーもこれが最後の勝負だと感じ、会場の空気が張り詰める。勝利を確信するキッド。次の瞬間、ハワードのストレート・フラッシュが打ち砕いた!落ち着き払ったザ・マンはゆっくりと葉巻に点火しながら、キッドにきっぱりと言い切る。『人生と同じさ。君は上手い。しかし、私がいる限りは2番手に甘んじるしかない。ここの勘定を払おう』完膚なきまでに打ちのめされ、ひとりホテルの裏口に座り込むキッド。そこへ現れた靴磨きの少年からコイン投げのゲームを挑まれるが、今のキッドにはこの少年に勝つことさえできなかった。少年に言われる。『年季が足りない』レイ・チャールズの歌声が流れてきて物語は終わる。 エドワード・G・ロビンソン演じる“ザ・マン”は天下無敵のオヤジを、その道を極めたプロフェッショナルを象徴している。そしてキッドも靴磨きの少年も、いつかザ・マンになる。若者はチャレンジする存在であり、戦いで鍛えられ、やがて真の大人になる。逆説的に言えば、「正々堂々と戦わなければ、ザ・マンには永遠になれない。ただ単に年齢を重ねるだけだとこの映画は教えてくれるのです。シガレットを吸っていたキッドは、やがていつの日かシガーを吸う大人の男になる。ザ・マンが燻らせるシガーが、「本物」を象徴するように。 では、また来週。 【おまけ情報】 実際の映画には二人の美女が登場します!それは見てのお楽しみということで。
広見護(ひろみ・まもる)
90年にソムリエ資格を取得後、単身キューバへ。銀座のフレンチレストラン在職中の97年、日本で初めて葉巻の書を著す。その後、外資系商社にてシガービジネスに携わり、06年から独自にシガーの輸入販売を開始。07年にはオリジナルシガーのブランドを立ち上げ、08年直営シガーバーをオープン。葉巻を吸い、書き、つくる、マルチプレーヤー。葉巻歴20年。
HIROMI ENTERPRISE HP
ギャングの世界だけでなく、ハリウッドでも葉巻をくわえることが許されているのは選ばれた男だけだった。エリッヒ・フォン・シュトロハイムやジョン・フォード、アルフレッド・ヒッチコックなどの大物映画監督。ダリル・F・ザナックなどの大物映画プロデューサー。そしてエドワード・G・ロビンソン、ジョージ・バーンズ、オーソン・ウェルズらキラ星のように輝くトップ俳優のみ。アメリカの葉巻業界は1949年、そんな選ばれし男の中から更に選び抜き、エドワード・G・ロビンソンに“ミスターシガー”の称号を贈っている。

そんなミスターシガーが出演した代表作の一つに「シンシナティ・キッド」(1965)が挙げられる。ポーカーのキングを目指す主人公にスティーブ・マックイーン(34歳)。ギャンブル界の頂点に君臨する帝王にエドワード・G・ロビンソン(71歳)。ベテランと若手の勝負。最初と最後に登場する靴磨きの少年が“男の成長”を暗示する物語。時は、グリーン・ラッパーのシガーが流行っていた時代、というのが闘鶏場のシーンに見て取れる。場所はニューオーリンズ、言わずと知れたジャズの街である。
写真:Rex Features/アフロ
アメリカの俳優。ルーマニアのブカレスト生まれ。
1903年、家族と共にニューヨークへ。シティカレッジ在学中
演技に魅せられ、American Academy of Dramatic Arts(AADA)で学ぶ。
15年ブローウェイ・デビュー。30年『犯罪王リコ』への主演を機に、
後のハリウッドのギャング映画に欠かせない存在に。短躯にダミ声、
その風貌から悪役で有名だが、8ヶ国語を操るインテリの素顔を持つ。
写真の通り、おだやかな紳士。主な出演作に『犯罪王リコ』(31)、
『深夜の告白』(44)、『キー・ラーゴ』(48)、
『シンシナティ・キッド』(65)など。
ディキシーランド・ジャズの伴奏で黒人の葬儀が行われていた。歳は若いが度胸があり、ポーカーで向かうところ敵なしのエリック・ストーナー(スティーブ・マックイーン)が通りがかり、それを見つけた黒人の靴磨きの少年が寄って来た。『シンシナティ・キッド!』貧しい少年にとってシンシナティ・キッドと呼ばれるエリックは憧れの存在である。少年はキッドにコイン投げのゲームを挑んだが、勝負は簡単についた。キッドは少年に諭す。『年季が足りない』キッドを羨望の眼差しで見つめ、少年は去って行った。
キッドは勝負相手を求め、ミシシッピ川を越えて隣町でも素人相手に金を稼いでいた。そんなところへ“ザ・マン”の称号を持つ伝説のギャンブラー、ランシー・ハワード(エドワード・G・ロビンソン)が街に現れる。小さな街の勝負師なんかで終わりたくないキッドにとって、30年に渡ってギャンブル界最高位のタイトルを保持しているハワードに勝ち、名声を得るチャンス。ハワードは街の名士、スレイドと対戦することになっており、ディーラーは古参のシューターに決まっていた。勝負の結果は当然であるが、スレイドの大負け。しかしプライドが高く、負け自体に気が収まらないスレイドは、シューターに次のキッドとのゲームでイカサマを命じる。実はシューターはスレイドに借金をしており、これを簡単に断ることができなかった・・・。
ハワードの泊るホテルの一室。頭脳と気力の限りを尽くした勝負が始まる。ゲームはキッドとハワードの他にも3名が加わったが、彼らはすぐに破産した。最後に残ったのはキッドとハワードの二人。キッドの優勢が続くが、シューターの行動に不審を抱いたキッドは、休憩時に掴み掛かる。『実力で勝つ自信がある。イカサマをやめないとばらすぞ!』シューターはスレイドの脅しに屈していたのだ。キッドは別のディーラーに交代させ、最後の勝負に挑む。
キッドの手はフルハウス。ポーカーフェイスだったキッドの口元が微妙に緩む。ギャラリーもこれが最後の勝負だと感じ、会場の空気が張り詰める。勝利を確信するキッド。次の瞬間、ハワードのストレート・フラッシュが打ち砕いた!落ち着き払ったザ・マンはゆっくりと葉巻に点火しながら、キッドにきっぱりと言い切る。『人生と同じさ。君は上手い。しかし、私がいる限りは2番手に甘んじるしかない。ここの勘定を払おう』完膚なきまでに打ちのめされ、ひとりホテルの裏口に座り込むキッド。そこへ現れた靴磨きの少年からコイン投げのゲームを挑まれるが、今のキッドにはこの少年に勝つことさえできなかった。少年に言われる。『年季が足りない』レイ・チャールズの歌声が流れてきて物語は終わる。
エドワード・G・ロビンソン演じる“ザ・マン”は天下無敵のオヤジを、その道を極めたプロフェッショナルを象徴している。そしてキッドも靴磨きの少年も、いつかザ・マンになる。若者はチャレンジする存在であり、戦いで鍛えられ、やがて真の大人になる。逆説的に言えば、「正々堂々と戦わなければ、ザ・マンには永遠になれない。ただ単に年齢を重ねるだけだとこの映画は教えてくれるのです。シガレットを吸っていたキッドは、やがていつの日かシガーを吸う大人の男になる。ザ・マンが燻らせるシガーが、「本物」を象徴するように。
では、また来週。
【おまけ情報】
実際の映画には二人の美女が登場します!それは見てのお楽しみということで。