フォトグラファー仁木岳彦のイタリア日記

コンサート400本! Piano City Milano

仁木 岳彦
上智大学新聞学科卒。旅の途中、イタリアにただならぬ縁を感じ、2000年からミラノ在住。撮影対象は興味の赴くまま、テーマはむしろ神々しい光の空気感。

金曜の晩、「23時半から、ピアノコンサートがあるからおいでよ!」と、ミラネーゼの友人からのショートメッセージがスマホに。ピアノにしてはずいぶん遅い時間だなあといぶかしながらも、指定場所のスカラ座の練習場へ行ってみました。聴衆たちのノリが、ビール片手にハッピーで、想像以上にイージーゴーイング。聞くところによると、なんとこのコンサートはオールナイトのピアノコンサートだったのです。「Piano CIty Milano」というイベントのひとつで、その週末は、ミラノ市内で「400本」というおびただしい数のピアノコンサートが催されたそうで。。。

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そのオールナイトのコンサートでは、寝転んじゃっている人達もいました。想像してみてください、ショパンの夜想曲や、ドビュシーの月光などの生演奏を近くで聴きながら、ウトウトする贅沢を。演奏する方も、オールナイトにふさわしいポピュラーな曲だけでなく、お気に入りの難解な曲や自分が作曲した曲なども織り交ぜて、それぞれ一時間ほどの持ち時間を存分に楽しんでいた様子。

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幸か不幸か、その週末は自宅の窓を開けるだけで、近所の公園からピアノの音色が聴こえてくる始末。「家でノイズに文句を言うか、行って音色を楽しむか?」なら、楽しんだ方が吉ですからね、行ってきました。しかし、イタリアは春から夏にかけて天候が良いとはいえ、思い切ったコンサート設営っすよね。生グランドピアノが公園に丸ごとドンですよ。なんとも開放的で心地よく、鳥の歌声も絶妙なタイミングで演奏に加わっていました。「雨降ったらどうすんだろ? 保険に入ってるのかな」なんて心配していたのは、僕ぐらいだったのかもしれません。しかし、みんな、人生の楽しみ方の達人ですね。

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ファッション業界も参加していました。スカラ座の隣にあるラグジュアリーなブティックでもコンサートが催されていました。ミラノの服飾文化にも、長い歴史の蓄積があるのだろうなあと、勝手な想像をしてしまいました。音楽会は、社交や娯楽に欠かせなかったでしょうからね、どう着飾って行くかと言う観点からして大いに関係があった様に思うのです。コンサートのおかげで、 洋服たちもいつもよりも輝いているように見えてしまいました。とにかく、ピアノさえあれば、どこでも会場にしてしまうのだそうです。基本的には入場無料で、空港、病院、邸宅、中庭、トラム (路面電車)の中などでも、ピアノの音色が鳴り響いていた模様。。。

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Piano City Milanoは、演奏者でも、作曲者でもなく、ピアノという楽器を主役に据えたイベントなのだと紹介されていました。楽器の王様ですもんね。オーケストラよりも音域が広いのだとか。。。ところで、諸説あるものの、ピアノはイタリアが元祖とも言われています。イタリア語では、ピアノの事を「Pianoforte」と呼びます。「Piano」も「Forte」も、日常レベルで聞く言葉なのですが、直訳すると「弱く」「強く」。強弱がつけられる鍵盤打楽器という事で、当時は画期的な新しい大発明だったそうです。主催者の挨拶などを見聞きした限りでは、イベント中、ピアノがイタリア元祖である説を強調する事もなく、語られる事さえない様子でした。音楽用語も元はイタリア語ですし、まあ、ヨーロッパの芸術的な事象の多くがイタリア元祖だったりするので、それについて殊更に語るのはカッコ悪いって感じなのでしょう。粋っすよね!

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トルコ人女性ピアニスト、Ayşedeniz Gökçinさんの野外コンサートでは、ロックバンド「ニルバーナ」の楽曲からのアレンジが演奏されていました。普通のコンサートホールでは入りきらないであろう聴衆の数。そして、みんなのエネルギーが舞台に一斉に向かっていく感じ。たくさんの人と「場」を共有しないと、ありえないであろう感動の渦を感じました。しかし、たった一台の楽器で、あの渦を作るんですからね。凄いっすね、ピアノって。

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なにかとイベントが催される公園の隣に住んでいるので、観察してるつもりなんすが、、、ここ数年、街中やオープンエアーで行われるイベントに集まる若者の数が以前よりも多くなってきている気がするんですよね。一言で「ネットの情報拡散力の影響」と言ってしまって良いのかどうか分かりませんが、やっぱり、なんか関係あるじゃないっすか? ゆる~い気分なまま、詳しい時間のスケジュールや楽曲プログラム、場所の地図、行き方や所要時間、行き当たりばったりの友人との待ち合わせなどが、スマホひとつで楽々出来る訳ですからね。とにかく、気合いを入れた事前のリサー チが必要ないんすよ。コンサートの真っ最中の会場内で、「私はピアノ真正面後ろの方にいるんだけど、探して!」みたいな感じでスマホでやりあっていたりとか、昔だったらありえないようなイージーな感じの人の流れも見かけました。しかも、そのスマホで写真やビデオを撮影して、その場の感動を仲間に向けてすぐにネット配信してる輩までいるんすよ。モバイル(移動式)コミュニケーションって、こういうイベントと相性が良いんでしょうね。

周りにつられるように、次々にクラシック、ジャズ、ポップ、ロック、タンゴ、、、などのコンサートで、様々なピアノ曲を堪能しました。友人の友人など交友関係も広げる良い機会にもなり、充実感のある週末になりました。金曜の晩、オールナイト・コンサートに誘ってくれた、友人からの一片のショートメッセージに感謝です!

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